心血管センター
心血管センターからのお知らせ
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センター長あいさつ(詳しいプロフィールはこちら)
医学・医療の目覚しい進歩によって必然的に専門分化が進みます。最高レべルの医療を提供するためには、最新の医療をくまなく実践できる少なからぬ数の専門家が必要です。そして、何人もの専門家が存分に力を発揮できる協力体制と診療環境が、診療センターに求められます。当センターはそういった理想像を目指して、ハード・ソフト両面の充足を図っていくつもりです。急激な展開を見せる先端医療のいくつかの分野では、高名な専門家の援助を得てすでに診療を開始しています。このように、これからも皆さんの要望に応えられるよう、当センターは発展を続けてまいります。
検査
受診される皆さんの状態に応じて、最適の検査を、最新の機器で提供しています。心血管センターで実施している主な検査は下記のとおりです。
心エコー(超音波)検査
胸部に超音波(高い周波数の音波)をあて、心臓の形や動き、弁の様子などを見る検査です。当院で使用している機器はこちら。
ホルター心電図
負荷心電図検査
血圧脈波検査(ABI)
血管内皮機能検査(FMD)
腕を圧迫した前後での血管の太さの変化を超音波で計測し、血管内皮機能を調べる検査です。FMDについての詳しい説明はこちら。
心臓核医学検査(シンチ)
320列マルチスライスCT検査
大動脈の性状を調べる際などに大きな威力を発揮する検査です。マルチスライスCT装置の導入により、鮮明な画像を3Dで、かつ短時間で撮影できるようになり、心臓のように動く臓器でも、またその表面にある冠動脈も撮像検討できるようになりました。当院で使用している320列マルチスライスCTはこちら。
MRI検査
心臓カテーテル検査
治療
内科的治療
外科的治療
冠動脈硬化症のバイパス手術
血管の狭窄している箇所の遠位部に、新しい血行を再建する治療が「冠動脈バイパス術」です。手術的な方法であり、胸を開いて心臓を露出し、脚の静脈(内くるぶしから大腿部の内側に上行している丈夫な静脈)や内胸動脈(胸骨の裏にあり、本来は横に枝を出して肋間筋を栄養している動脈)、胃大網動脈(胃袋の下側を走行している動脈)や橈骨動脈(前腕の動脈)などを用いて冠動脈に直接吻合して血行路を作る"配管工事"的手術治療です。
冠動脈バイパス術の欠点は、開胸手術であるという点です。当然痛みを伴いますし、治療を受けてからの回復期間も2週間以上を要するのが普通です。
一方で、冠動脈バイパス術では、狭窄に陥った病変の先の健全な部分に健全な血管をつなぐ作業となるので、それだけ確実な血行再建になります。きちんと吻合が行われると、数年以内に再度の治療(カテーテル治療追加や冠動脈バイパス再手術)を必要とされることはほとんどありません。特に左前下行枝(3本の冠動脈のうち最も支配領域が大きく、大切な血管)に長持ちすることがわかってきた内胸動脈を吻合することが普通に行われるようになってから、バイパス術の効果が10~15年、あるいはそれ以上、かなり長く持続するようになりました。
冠動脈バイパス術なら、完全閉塞病変に対しても問題なく血行再建ができます。また多枝病変であっても、人工心肺による循環保護下に(つまり心臓が全身に血液を流す働きを機械に代行してもらっている間に)バイパスをつなぐことができるので、安全にすべての部分に血行再建を企てることが可能です。現在のところ、以下のような治療選択が一般的です。
従来冠動脈バイパス術は、人工心肺による循環保護下に実施されてきました。心臓の表面にある冠動脈に血管吻合を行う手技ですが、心臓の収縮に応じて冠動脈も揺れますので、3mmの血管吻合という細かい作業にとって、その動きはつらいものがあります。そこで、人工心肺を使って全身の循環を機械に委ねた上で大動脈を遮断し、心臓の動きを止めたうえで手術をすれば、静かな視野で血流もない状態での吻合となり、手術が容易になります。
しかし人工心肺を用い、大動脈を遮断し、冠動脈の血流を停止しておこなう手術には、それ固有の危険性、侵襲性がある事も事実です。そこで、人工心肺を使用せずに行う冠動脈バイパス術が開発され、普及しています。
具体的には吻合部の冠動脈部位が心臓の収縮に同期して動揺しないように、当該部をスタビライザと呼ばれる装置で"抑えこんで"静かな視野を得、切開した冠動脈から噴出する血流を細管を挿入したり、切開部の前(後)冠動脈を一時的に牽引して堰きとめたり、それでも出てくる血流をガスジェットで吹き飛ばしたりして視野を確保し、吻合を行うのです。
さらに正中切開の視野で手術をする場合、左前下行枝や右冠動脈近位部などは比較的簡単に視野がだせ、心臓の本来の位置を動かさなくても吻合手技ができるのですが、回旋枝領域や右冠動脈末梢部などへの吻合に際しては心臓の尖端を前側に持ちあげて、ちょうど心臓をひっくりかえすような操作をしないと吻合が出来ない、という問題があったのです。しかしこれについても特殊や心膜切開法および心膜の吊り上げの方法、ないし術中の体位の工夫をすることによって、ほとんどの部位の冠動脈領域で血行動態を維持しながら吻合することが可能になっています。
腹部大動脈瘤 大動脈置換術
超高齢者や極端に衰弱している方、他に重症心不全や肺機能低下、肝硬変などの合併疾患をかかえている方以外であれば、未破裂性大動脈瘤(腹部で腎動脈下のもの)に対しては極めて安全に手術治療が実施できます。そしてその効果(破裂防止という意味での)も確実であるため、現在のところ、この治療が最大径5cm以上の大動脈瘤に関しては標準的な治療方法となっています。手術はみぞおちの下からへその部分を超えて恥骨上まで腹部を正中に切開して行うことが普通です(腹部正中切開による開腹術)。なお腸骨動脈瘤は大動脈瘤よりも破裂の危険性が高いといわれており、腸骨動脈(正常径1cm程度のもの)の最大径が3cm以上に拡大している場合には腹部大動脈瘤の最大径が5cm未満であっても積極的に手術を適応するべきです。
一方、破裂してしまった場合には血圧低下が著しく血液が全身に回らないショック状態での治療となるので、危険すぎて手術ができないか、なんとか大動脈から出た出血が血腫となって半固まりとなり、腹腔内で圧迫止血の役割を果たして血圧がぎりぎり維持できる状態で緊急手術となるかのいずれかですが、後者の場合でも手術死亡率は50%以上の高率になってしまいます。未破裂の状態で大動脈瘤を見つけて適切な治療を行うことの重要性が、この数字からもうかがえるでしょう。
*大動脈瘤を有する患者さんの10〜25%に動脈硬化性の疾患の併発が報告されます。従って、腹部大動脈瘤の手術治療を考慮する場合にはかならず冠動脈造影(心臓の筋肉を栄養する動脈系の造影)を実施して有意の狭窄病変がないのかどうかを確認する必要があります。しばしば大動脈瘤に対する手術治療の前に冠動脈狭窄の治療を要する場合があります。(心臓の血流が不十分なままで開腹手術を行うことは危険だからです。)場合によっては大動脈瘤手術と冠動脈バイパス術を同時に行うこともあります。
手術(や下記ステントグラフト)に用いる人工血管の材質はDacronとよばれる化学繊維で織り込んで作ったものやGoreTexという撥水性材料で作られた筒状構造のものです。Dacronの織物の場合は、血液が折り込みの目から漏れることで出血がおこるわけですが、最近の人工血管材料の場合、筒の外表面にコラーゲンやゼラチンを"塗って"出血がおこらないようにしたものとなっており、吻合部以外からの出血の問題はほぼ完全に解決されています。このような人工血管の耐用性は非常に長く、人工血管の劣化によって再手術を要するような事態になることはありません。
腹部大動脈瘤 ステントグラフト内挿術(血管内瘤治療)
数年前から臨床的に実践されてきている方法です。ソ径部の大腿動脈を切開して、ここから管の先に人工血管をたたんで装着したものを挿入し、大腿動脈→外腸骨動脈→腹部大動脈とすすめてゆきます。瘤の部分で、おりたたんでおいた人工血管を拡げるのですが、この人工血管の内側には特殊な、パンタグラフの様な金属製の装置(ステント)が付いていて、ストッパーをはずしておしつけると、折り畳み傘が開くようにぐんと突っ張って人工血管を大動脈壁に内側から押しつけてくれるのです。この操作によって開腹手術によらずに、より侵襲が低い方法で瘤への血流の侵入、圧負荷による破裂が防がれる、という理屈です。
この治療法は従来の開腹術による直達の人工血管置換術に比較して、はるかに侵襲が低い事が魅力です。全身麻酔で実施しますが、創部は両側ソ径部のみですので、術後は同部の若干の創痛だけですみ、鎮痛剤も数日内服で十分なほどです。開腹術と違い腸の動きを抑制することや腹膜切開によるけっこう強い腹痛をおこすことがないため、翌日より食事が可能であり、どんどん歩いて回復を図れます。当院でも同治療の保険適用がなされた2008年以降、同治療を積極的に実施、下記の問題点で適応できない、あるいは適応に問題がある患者さんを除き、腹部大動脈瘤治療の第一選択法として実施し、今日に至っています。
※ステントグラフト治療が困難あるいは不適な場合、ステント治療の抱える問題点
- 大動脈瘤が腎動脈分岐の直下、あるいは腎動脈をまきこんで発生している場合。この場合はステントグラフトの留置端が腎動脈を塞いでしまうことになりますので、術後腎不全が生じてしまいます。現在使われているステントグラフトには枝付きのグラフトはないので、今のところ腎動脈起始部より10mm程度遠位より始まる瘤に対してしかステントグラフト治療は適用できません。これより上部から派生している瘤については、やはり従来通りの開腹による直達手術が適用されます。(将来的に枝付きステントグラフトの開発利用がなされるようになれば、近位起始の腹部大動脈瘤についても適用できるようになると期待されます。)
- 若年発症(たとえば40歳代)ではステントグラフトの長期的な予後(将来どのようになるか、変性などによってステント留置部に隙間が入り、同部より瘤内への血流が復帰してしまう可能性など、不明な部分がある)を考慮すると、直達開腹術による人工血管置換のほうがより確実な治療と言えます。
- ステントグラフト治療では術後留置からの血液の瘤内への漏れの有無や、瘤から派生している腰動脈を介しての逆行性の瘤内への血流による瘤拡大の可能性を考慮して、年に一度程度の造影CT検査が必須であり、これで瘤拡大が認められる場合には再度の留置部のバルーン押しつけ、部分的ステント重ね留置を行ったり、瘤に流入する動脈枝のカテーテル的コイル閉鎖術の追加、場合により直達開腹手術の試行などを要する可能性があります。
胸部大動脈瘤 上行大動脈瘤の治療
最大径5cmを超える大きさの瘤に対しては、破裂の危険性を考えて積極的に手術治療が選択されます。手術は通常胸骨正中切開で行われます。
上行大動脈の根本には大動脈弁があり、その上数cm以内の部位からは心臓の筋肉を栄養する冠動脈が左右1本ずつ分岐しています。ここまでの部分は特に大動脈基部と呼ばれますが、同部が瘤化してしまうと、大動脈弁輪の拡張によって弁尖が合わなくなり、弁逆流を生じる場合があります(大動脈弁閉鎖不全症)。このような病態に対して手術を企てる場合には人工血管と人工弁(通常は機械弁)をあらかじめ縫着して作成したもので大動脈弁輪〜上行大動脈を置換し、この人工血管に左右の冠動脈をつなぎ直して再建する、という方法(この方法を大動脈基部置換術、あるいはBentall手術と呼びます)が必要になります。
大動脈基部瘤に対して弁を切除してBentall手術をするのではなく、弁輪ぎりぎりまで大動脈瘤を切除した上で、温存した自己大動脈弁を人工血管に縫着しなおす手術(左右冠動脈は人工血管につなぎ直す)が最近(ここ数年ほど)はさかんに実施されるようになりました。(方法を開発した外科医の名前をとってDavid法とかYacoub法などと呼ばれています。)人工弁(機械弁)が入ると終生のワーファリン内服による厳密な抗凝固治療が必要になるのに対して人工血管だけで自己弁が温存されていれば抗凝固治療は必要がないために、メリットがあり期待されるべき手術法なのですが、一方では遠隔期において人工血管に縫着しなおした自己大動脈弁がどの程度機能維持できるのか、という未解決な問題を残していることも事実です。
基部より遠位の上行大動脈に限局した瘤の場合には、この部分に主要な分枝もないので、単純に瘤切除を行って人工血管に置換する手術法が採られます。(この部位であれば、腹部大動脈瘤で採用されるステントグラフトの適応も理論的には可能です(たとえば鎖骨下動脈切開で上行大動脈に挿入して固定する方法)が、実際には人工血管を突っ張り固定する部分に冠動脈や頸部分枝(腕頭動脈、頸動脈)が分岐することになるわけで、これらの血管系に血流阻害を起こす可能性大であり、現在の材料と技術では危険で行えません。また瘤内の動脈硬化性のカスがカテーテルによってステントグラフトを押しつける時に剥がれて飛び散ってしまうと、高頻度で脳動脈に流れてゆくので、この脳塞栓の危険性を考えても上行大動脈瘤へのステントグラフトの適応は危険であると言えます。)
上行基部大動脈瘤に対する基部置換術あるいは自己弁温存の基部人工血管置換術にせよ、より遠位側の上行大動脈瘤に対する人工血管置換術にせよ、上行大動脈を手術するときには、腹部大動脈瘤に対する手術のように瘤の前後を鉗子にて単純遮断して、その間を替える、というような方法はとれません。大動脈の根本で遮断をすれば心臓からの血液の行き場がなくなってしまいますし、冠動脈系(心筋)や脳への血流が途絶えてしまえば手術をしている間に心筋梗塞や脳梗塞でおだぶつということになってしまうからです。そこで人工心肺装置により循環を保った上で手術をする、という事が行われます。
上行大動脈瘤に対する手術は未破裂であれば、通常の開心術と同等の安全性で実施することができます。超高齢者や合併症のない症例であれば手術死亡率(手術を契機として死に至る確率)は5%以下です。いっぽう破裂してしまえば緊急手術まで間に合わないことがほとんどで、間に合っても死亡率は50%を超えますので極めて危険という事になります。
胸部大動脈瘤 弓部大動脈瘤の治療
最大径5cmを超える大きさの瘤に対しては、破裂の危険性を考えて手術治療が選択されます。手術は通常胸骨正中切開で行われます。
弓部大動脈瘤の特殊性は、この部位から上肢および頭部(脳を含む)を栄養する主要動脈が分岐していることです。すなわち腕頭動脈、左総頸動脈、および左鎖骨下動脈(頸部3分枝)です。手術は弓部の大動脈瘤部位を人工血管で置換することになるわけですが、この人工血管に頸部3分枝を縫いつけ直して再建する必要があるのです。
弓部大動脈から下行大動脈に移行する部分は背部に潜り込んでゆく(下行大動脈は胸椎のすぐ前の部分を降りてゆく)ので正面からの視野では極めて深い部分になってゆき、吻合手技が困難となります。
以上の特殊性から、弓部大動脈瘤に対する人工血管置換術は上行大動脈瘤手術より難度が高く、それだけ手術死亡率が高くなる傾向があります(手術死亡率5〜10%)。さらに頸部動脈再建に際して脳血流が影響を受けるために術後脳梗塞、脳障害を引き起こす可能性があります(5〜15%程度、高齢者になるほどそのリスクは上がります)。
胸部大動脈瘤 胸部下行大動脈瘤の治療
最大径5cmを超える大きさの瘤に対しては、破裂の危険性を考えて手術治療が選択されます。手術は左開胸といって、左側の肋間を切開し、肺を一時的におしつぶして大動脈部を露出して、前後の正常径大動脈部分に鉗子をかけて血流遮断し、瘤部を人工血管で置き換える治療です。単純遮断をして手術する施設もありますが、腹部主要分枝の血流が阻害されるために腎不全や腸管虚血がおこる可能性があるため、下図のように補助循環を行いつつ手術をする事のほうが普通です。
胸部下行大動脈からは肋間動脈が出ますが、横隔膜の高さ近辺で分岐する肋間動脈からは脊髄の栄養に重要な枝が出ている場合が多く、この部位の肋間動脈を結紮してしまうと、この高さで脊髄が梗塞をおこし、術後両脚が麻痺してしまったり(これを対麻痺と呼びます)、直腸膀胱障害(失禁など)を生じてしまう危険性が出てきます。同部位の肋間動脈に対しては人工血管から側枝人工血管をつないで血行再建するのですが、どの部位の肋間動脈が重要な枝なのかに関しては個人差があり、より高位の肋間動脈の結紮で対麻痺が生じてしまうこともあり、かといってすべての肋間動脈再建を行う事は手術時間上からも困難であったり、再建時間をかけているうちにすでに脊髄虚血が完成してしまう場合もあり、いろいろな術中診断装置の改善や手術法の改善にもかかわらず、現在に至っても胸部下行大動脈瘤(とくに横隔膜近くにまで及ぶもの)での対麻痺発生率は5〜10%に登ります。胸部下行大動脈瘤手術の最大の問題点はここにあります。
瘤が大きくなると肺と癒着してしまうため、術後に癒着面からの出血や肺の損傷がおこる事があり、これらの合併症が死亡につながる事があります。胸部下行大動脈瘤(未破裂)の手術死亡率は3〜5%程度になります(いっぽう破裂性大動脈瘤の場合には手術まで間に合った場合でも50%以上の死亡率になります)。
胸部下行大動脈瘤に対してもステントグラフトが行われます。症例の積み重ねにより、同部へのステントグラフト治療は手術治療よりも対麻痺の合併症が少ない傾向が明らかになってきており、手術治療に替わり得る方法といえます。
当院でも現在、胸部下行大動脈瘤に対する治療の第一選択がステントグラフト治療(血管内瘤治療)となりました。開胸を要せずにソ径部大腿動脈、あるいは後腹膜切開により腸骨動脈からのカテーテル的なステントグラフトの挿入留置で終わる治療であり、上記の対麻痺の低併発率とあいまって、その低侵襲性(胸を切ることによる痛みや痛みのための呼吸抑制に起因する痰詰まりや肺炎併発などの合併症が少ない事、術後の痛みがほとんどなく、翌日より楽々と歩いて過ごせ、入院期間も数日で済むこと)から、施行側にとっても、そして何より受ける患者さん側からみて魅力的な治療であり、今後材料の質の改善に伴い、さらに適応が拡大され、普及するものと考えられます。
胸腹部大動脈瘤
大動脈の正常の解剖については上記を参照してください。腹部大動脈瘤に較べれば頻度は低くなりますが、横隔膜前後にも瘤化(正常径の1.5倍以上に拡大する状態:正常大動脈径は20〜25mmですので、30〜40mmになると大動脈瘤と呼ばれます)がおこる事があります。腹部大動脈瘤の場合と同様、感染(大動脈壁に細菌がとりついて壁を脆弱にしてゆくためにおこるもの)や体質的に大動脈壁の組織が弱い人(Marfan症候群や大動脈炎症候群などの疾患を有している方)でおこる場合が見られます(体質的素因でおこる場合は思春期〜30歳代など、若年で発症することがしばしばです)が、これらの原因よりも多いのが、大動脈壁の動脈硬化性変化に伴うものです。動脈硬化性の大動脈瘤の場合は、腹部大動脈瘤同様、高齢者に多く見られ、高血圧や糖尿病、高脂血症といった動脈硬化の進行しやすい体質をお持ちの方に好発します。中年〜高齢の男性に好発し、25%程度の確率で冠動脈(心筋を栄養する動脈系)や脳動脈、下肢動脈などに狭窄性の病変を有します。
腹部大動脈瘤の項で説明したように、瘤の直径と壁にかかる張力の間に比例関係が成立し、拡張が進めば進ほど壁にかかるストレスが高まって破裂に向かってしまう、という性質があります。瘤の直径が5cmを超えるようになると破裂の危険性が高くなるので、手術治療を考慮すべきです。それ以下では高血圧に対する降圧治療や動脈硬化防止治療を行いながら、慎重に経過観察をしてゆきます。半年〜1年に一度のCT検査(コンピュータ断層X線撮影検査)を実施して0.5cm/年の径の増大か、最大径が5cmとなった時点で手術治療が考慮されます。
手術の内容は瘤の部分を人工血管で置換するものです。胸腹部大動脈瘤は横隔膜の前後に拡大しているものですから、切開は肋間から始まって横隔膜を切開して後腹膜に及ぶ広範なものになります(下図を参照下さい)。また、横隔膜部近傍の肋間動脈からは脊髄に重要な血流が供給されていることが多く、再建中にこの部位の虚血で対麻痺がおこる可能性があります(現代の技術と術中検査法ももってしても5〜10%の確率でおこってしまいます)。さらに腹部主要臓器の血流の一時遮断による影響で腸管虚血や腎不全もおこりやすく、大きな切開による侵襲とあわせ、胸腹部大動脈瘤手術の手術死亡率は未破裂であったとしても、他部位の動脈瘤手術に比較して高い(10〜15%程度)のです。
同部の大動脈瘤に対してもステントグラフト治療を実施することがあります。といってもこの部分には腹腔動脈、状腸間膜動脈および左右の腎動脈が分岐していますので、これらの枝をステント留置によって閉塞させてしまうと肝臓腎臓、腸管といった腹部のほとんどの重要臓器の阻血がおこり致死的になります。そこで現在、同部にステントグラフト留置を行う場合は、その前に開腹をしてこれら主要な腹部分枝をより遠位の大動脈あるいは腸骨動脈から人工血管を利用してバイパス吻合しておき、主要分枝の起始部は結紮してしまう、という手技を実施します(デブランチングと呼ばれます)。この後に横隔膜上から腹部大動脈の中腹以遠にかけてステントグラフトを留置し、胸腹部大動脈瘤部に血流がゆかないようにするわけです。腹部腫瘍分枝は上記の通りで、遠位腹部大動脈あるいは腸骨動脈経由で人工血管を介して血流が維持されるため問題はおきません。
開腹、デブランチングを実施してまでステントグラフト留置術を適用する事がある、最大の理由は、開胸開腹による直達の人工心肺手術と比較して、術後対麻痺の発生率が2%程度と、直達手術よりも低い事です。術後足が動かない、直腸膀胱障害で排便排尿が介助となる、といった術前と比較しての圧倒的な生活の質の低下を余儀なくされる事が多い、この悲惨な併発症を減らす、このために、胸腹部大動脈瘤部分についてのステントグラフト治療が積極的に適用されつつあります。
弁形成術・弁置換術
弁の修復(弁形成術)には、
- 余剰となった弁尖を切り取って縫い合わせなおす治療
- 腱索(心房と心室の間にある弁を心室側で支えているズボン吊りのような組織。複数本の腱索がまとまって乳頭筋に付着している)を立て直して漏れを治す治療
- 拡大して緩んでしまった弁輪を締め直してきちんと弁尖が合わさるようにする治療(閉鎖不全に対する治療)
- 癒合してしまった弁尖を切り開いて狭窄を解除する治療(交連切開術)
などがあります。房室弁(心房と心室の間にある弁、つまり僧帽弁や三尖弁)に対して主として行われ、よい成績が上がっています。
弁の病変があまり進んでいない症例なら、弁形成術によって、ほとんど生涯にわたり正常に近い弁機能が維持できることが十分に期待できます。弁置換術と比べて、人工弁の耐久性を心配したり、煩雑な抗凝固剤のコントロールに悩まされないでよい、という利点があります。
しかし弁の病変が一定以上に進んでしまえば、どうしても修復によっては長期にわたる効果が得られないので、弁を切除して人工の弁に取り替える必要が出てきます。弁置換術と呼ばれる手術です。
弁形成術にしても、弁置換術にしても、心臓を開く手術ですので、人工心肺を用いた開心術になります。僧帽弁の手術の場合は左心房に切開を加えて中を覗き、僧帽弁に到達して行われ、大動脈弁の場合は大動脈の基部に切開を加えて手術がなされます。
これに対して僧帽弁狭窄の程度が中等度までで、閉鎖不全を伴っていない場合は、カテーテルという管を用いて行われる治療が存在します。大腿部の静脈から挿入した管(直径4mm以下の細い管)を進めてゆき、右心房で先端についた針のような組織で心房中隔を穿破し、左心房に管の先端を導いてゆきます。この管を介して先端に風船のついたチューブを挿入し、僧帽弁を通過する所でしぼませて進めた風船を大きくふくらませる事により、僧帽弁の癒合部が裂開し、狭窄が解除できる、という治療です(経皮的経カテーテル的僧帽弁交連切開術:PTMC)。
この治療の魅力はカテーテルで行われる治療であるために、開胸という操作が不要であり、全身麻酔もいらず、回復も早い、という点です。十分な開大が得られれば、そのまま長期に再狭窄を来さずにいける場合も多いのです。問題点は適応できる病態が限定的であること、心房中隔を穿破する時の合併症や僧帽弁開大による有意の逆流の発生のために結局手術が必要となる可能性があることでしょう。同様の治療は大動脈弁狭窄症に対しても行われますが、僧帽弁とくらべて十分な効果が得がたく、手術治療には及びません。
リハビリテーション
センター内に心血管リハビリユニットを設置し、入院時から退院後も循環系を維持発展し生活能力のアップ、質の向上に関わってゆくシステムを有しています。
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目的
心臓や血管の病気をお持ちの方が、病気を治療するだけではなく、以前と同じように活動ができるために、運動やカウンセリング、教育等を通じて、身体的・精神的ダメージを、改善へと導くお手伝いをしています。また、今後の再発予防のために、運動習慣・生活習慣が身につくようサポートをしていきます。
対象
心筋梗塞、狭心症、慢性心不全、閉塞性動脈硬化症の方や心臓血管手術後の方が対象となります。
スタッフ構成
- 循環器内科医師:
- 西裕太郎(心臓リハビリテーション指導士)
- 心臓血管外科医師:
- 阿部恒平
- 看護師:
- 谷地季子(外来リハビリ担当)
- 理学療法士:
- 岡村大介(心臓リハビリテーション指導士)、馬渕美也子(心臓リハビリテーション指導士)
急性期心臓リハビリテーション(入院中のリハビリ)
日常生活を送れるようになることを目標に、入院後早期から理学療法士と共にリハビリを開始します。当院では運動と並行し、看護師、薬剤師、栄養士による各種指導を実施しています。また、必要に応じてソーシャルワーカーが退院準備の相談をしています。
回復期心臓リハビリテーション(外来でのリハビリ)
2007年1月より外来エリアの奥に心臓リハビリテーション室を開設し、外来でのリハビリテーションを実施しています。退院後も運動療法を継続することで、運動能力の維持・改善、生活の質の向上、再発予防や生命予後の改善に有用であることが知られています。運動療法と並行して、心臓や肺の機能を総合的に評価する「心肺運動負荷試験(CPX)」を実施し、その方の心肺機能に合った運動を指導するとともに、週1回「リハビリ教室」を開催し各職種毎の指導も行っています。
リハビリ教室の内容
医師
- 開心術後も元気に生活するために
- 循環器疾患とリハビリについて
看護師
- 退院後の日常生活について
- 高血圧症について ~血圧測定と日常生活~
- 実践!心肺蘇生法
- 運動の処方箋 ~心肺運動負荷試験の検査方法・結果の活用~
薬剤師
- これって常識!? ~薬について知ってもらいたいこと~
- あなたの血管は大丈夫!? ~動脈硬化について~
- 血液をサラサラにする薬 ~ワーファリン~
- 体を動かして心地よい眠りを
理学療法士
- 心疾患に対する運動療法
- 足腰鍛えて心臓元気!
- 呼吸法で心(臓)と体をリラックス
- 心臓のための貯筋術
管理栄養士
- チェック!日常の食習慣
- 中性脂肪の正体
- コレステロールのうわさ
- 知ってる?食品の塩分
心肺運動負荷試験(CPX)
リハビリテーションを開始してから1ヶ月後と5ヶ月後に2回実施します。マスクや心電図モニターを装着し、エルゴメーターを施行する検査です。この検査を行なうことで、その時点での最適な運動負荷量の目安が分かります。
屋外心臓リハビリテーション
セカンドオピニオン
セカンドオピニオンとは、「患者さんが現在治療されている病院での診断や治療方針について、
他の病院の医師に意見を聞く」ということです。例えば、
「手術が必要、と言われたが、本当に手術以外に治療方法が無いのかを聞いてみたい」
「あなたは◯◯病の可能性が高いです、と言われたが、本当にそうなのかを聞いてみたい」
「もう何の治療方法もありませんと言われたが、本当にそうなのかを聞いてみたい」
といったご相談をお受けするものです。
聖路加国際病院のセカンドオピニオン相談は、現在他院で受けて診断や治療方針に関してご意見を申し上げることを目的としています。そして必ず元の医療機関にお戻りいただきます。そのため、当院での治療や検査、入院をご希望される場合でも、相談後に元の医療機関にお戻りいただき、改めて当院での治療を希望する旨の紹介状を医師に書いていただくことになります。
心血管センターでは、下記の疾患についてのセカンドオピニオンをおこなっています。
- 虚血性心疾患
- 大動脈疾患
- 心臓弁膜症
- 不整脈
- 高血圧症虚血性心疾患の外科治療(冠動脈バイパス術、左心室形成術など)
- 弁膜症の外科治療(弁形成術、弁置換術)
- 大動脈に対する外科治療(大動脈瘤切除術、ステントグラフト留置術)
- 不整脈の非薬物的治療(外科)(心室頻拍、心房粗細動)
- 心筋症の外科治療(肥大型心筋症に対する心筋切除術、拡張型心筋症に対する左心室形成術など)
- 小切開心臓手術、末梢動脈外科手術(閉塞性動脈硬化症への肢動脈バイパス術など)
詳しいお申し込み方法等につきましては、こちらのページでご確認ください。











































